半導体の3D化を支える
ウェハ接合と露光の補正技術
私たちの生活を支えるスマートフォンやPC、そして最近話題の生成AI。
これらのデジタル技術の進化を支えているのが「半導体」です。
半導体は、情報を記憶し、計算や演算を行う、いわば電子機器の「頭脳」です。その性能向上と省エネルギー化は、私たちの生活をより便利にする上で重要なテーマとなっています。
特に近年、半導体の「3D化」が進んでおり、これが性能向上の鍵を握っています。
半導体の3D化を支える「ウェハ接合技術」と、それに伴う課題を解決するニコンの露光技術について解説します。
半導体の3D化とは
微細化から3D化へ ─ 進化する半導体技術
半導体の進化は、これまで「微細化」が中心でした。つまり、回路をどれだけ小さく作れるかが技術の焦点だったのです。しかし、微細化だけでは限界が見えてきたため、最近では「3D化」が注目されています。これは、半導体を立体的に積み重ねることで、性能を向上させる技術です。
3D化が進む主なデバイス
CMOSイメージセンサ
スマートフォンのカメラや車載カメラに使われるCMOSイメージセンサは、2010年代ごろから「裏面照射型」という技術が導入され、3D化が進みました。これにより、光感度が飛躍的に向上し、より高画質な撮影が可能になりました。
ロジックデバイス
高性能プロセッサなどに使われるロジックデバイスでは、トランジスタの構造が「FinFET」から「Gate All Around」へ、さらに将来的には「CFET」へと進化していきます。また、電力供給を効率化する「BSPDN」という技術も導入され、3D化が進んでいます。
メモリデバイス
メモリデバイスであるDRAMやNANDも、3D化が進行中です。特にDRAMについてはEUVLの微細化に加えて、3D積層技術の応用が検討されており、メモリセルとCMOS回路を接合するタイプの3D構造が検討されています。NANDフラッシュメモリでは、メモリセルを積み重ねることでストレージ容量を増やす技術が採用されています。
これらの3D化を実現する上で、すべてのデバイスに共通するキーテクノロジーが、2枚のウェハを精密に貼り合わせる「ウェハボンディング技術」です。
3D化を支える「ウェハボンディング」技術
3D化の核心技術と克服すべき歪み問題
半導体の3D化を実現する鍵はいくつかありますが、その一つとなるのが「ウェハボンディング」技術です。これは、それぞれ異なる機能を持つ回路パターンが露光された2枚のシリコンウェハを、まるで紙を貼り合わせるように接合する技術です。しかし、この技術には大きな課題があります。それはウェハを貼り合わせる際に発生する「歪み」の問題です。
2枚のウェハを貼り合わせる際、間に空気やパーティクルが入り込まないよう注意深く作業しますが、このウェハ接合の過程でウェハが物理的に大きく歪んでしまいます。
このウェハの「歪み」は、主に二つの問題に分けることができます。一つ目は、2枚のウェハの貼り合わせ精度を表す「Bonding Overlay」への影響、もう一つは、リソグラフィー工程で、重ね露光したLayerの重ね精度を表す「Post Bonding Overlay」への影響です。
これらはいずれも最先端のデバイスの性能を発揮するための大きな阻害要因となり解決が必要です。その解決策として接合技術の高精度化やリソグラフィー工程における高歪ウェハの補正が考えられます。
また、今後の最先端デバイスにおいて、この「Bonding Overlay」と「Post Bonding Overlay」の要求値は高くなり、接合技術の高精度化やリソグラフィー工程における高歪ウェハの補正の重要性がさらに高まることが予想されます。
ウェハボンディングの課題を解決する「Litho Booster」
歪み補正に貢献するニコンのアライメント計測
この困難な課題を解決するために、ニコンは「Litho Booster」というスタンドアローン型のアライメント計測機を開発しました。この装置は、従来の常識を覆す大きな特長を持っています。
生産性を落とさずに「高精度・多点計測」を実現
複雑な歪みを正確に把握するには、ウェハ上のたくさんの点を計測(多点計測)する必要があります。しかし、計測点を増やせば増やすほど、生産性が落ちてしまうのがこれまでの常識でした 。
Litho Boosterは、露光機から独立しているため、露光機の生産性を一切阻害することなく、必要なだけ多点計測を行うことができます。これにより、「高精度な補正」と「高い生産性」の両立を可能にしました。
重ね合わせズレの原因を切り分けられる「絶対位置計測」
従来の重ね合わせ計測では、2枚のウェハの「相対的」なズレしか分かりませんでした。そのため、どちらのウェハに歪みの原因があるのかを特定するのは困難でした。
しかし、LithoBoosterはウェハ上のマークの「絶対的」な位置を直接計測できます。LithoBoosterから出力される「絶対位置計測」の結果より、どちらのウェハに、どのような歪みが発生しているのかを分離して把握することが可能となります。
Litho Boosterが実現する補正事例
ボンディングによる歪みの課題を解決する3つのアプローチ
ボンディングによる高歪ウェハを改善するため、Litho Boosterを使った3つの補正方法をご紹介します。マークの位置を直接計測できるため、重ねマークが形成される前の接合ウェハを計測することが可能です。
ボンディング歪みの補正フロー
FF補正(フィードフォワード補正)
下層の歪みを事前に測定し、上層を露光する際に補正します。歪みに合わせて露光パターンを調整することで、正確な重ね合わせを実現します。「Post Bonding Overlay」の改善に効果があります。
FB補正(フィードバック補正)
貼り合わせの際に発生する歪みを予測し、貼り合わせ前のウェハを露光する段階で、あらかじめ逆方向の補正を加えておきます。貼り合わせ後に理想的な位置関係になるよう事前調整する手法です。「Bonding Overlay」の改善に効果があります。
ボンディング装置補正
計測データをウエハ貼り合わせ装置の制御にフィードバックすることで貼り合わせ工程での位置ずれの改善が期待されます。
半導体の3D化が進む中で、ウェハ接合技術と露光技術の重要性はますます高まっています。特に、接合による歪みを克服する技術は、次世代のデバイス開発において欠かせないものとなるでしょう。ニコンのLitho Boosterは、こうした課題を解決するための革新的なソリューションです。これからの半導体技術の進化に、ますます期待が高まります。
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株式会社ニコン
精機事業本部 半導体装置事業部
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