半導体製造の重要工程「露光」と「計測・検査」

半導体のウェハ上に微細な回路パターンを転写する「露光(リソグラフィー)」の工程は、半導体製造における最も重要なプロセスの一つであり、その装置選定は生産プロセス全体の効率や品質に大きな影響を与えます。ここでは、液浸露光技術を含む露光装置と、精度とスループットを両立する計測・検査装置の基礎知識について解説します。

半導体露光装置とは

人類史上最も精密な機械―半導体露光装置

半導体製造は、大きく前工程と後工程に分かれます。前工程では、シリコン製の基板の「ウェハ」に、露光装置を用いて回路パターンを転写します。後工程では、このウェハを個々のチップに切り分け、パッケージングします。

前工程において重要な役割を担うのが「露光」という工程で、ここで露光装置が重要な役割を果たします。露光装置は、フォトマスクと呼ばれる設計図をもとに、回路パターンを極めて高い精度でウェハ上に縮小して投影します。完成した半導体チップは数mm四方ですが、そこには髪の毛の太さの数千分の一という極めて微細な回路が刻まれます。この驚異的な精度から、露光装置は「人類史上最も精密な機械」と呼ばれています。

CPUやメモリーの製造に適した半導体露光装置

例えば自動車には、駆動の制御には「非微細系」、情報処理を担うCPUには「微細系」と、回路の幅が異なる半導体が利用されています。製造する半導体の用途に応じて、さまざまな半導体露光装置が使い分けられます。

自動車で使われている半導体やセンサーの一例

半導体露光装置の性能を決める3つの技術

  • 技術 1

    微細な電子回路パターンを露光するための「投影レンズの解像度」

  • 半導体露光装置の性能を決める第1の技術は、「投影レンズの解像度」です。レンズの解像度が高いほど、細かい回路パターンを転写することができます。ニコンではレンズの原材料の調合から熔解、研磨、コーティング、組み立てまで一貫した生産体制で品質を管理し、レンズ性能を高めています。投影レンズは、20枚以上のレンズを組み合わせ、その全⻑は1m以上にもなります。

  • 技術 2

    下地のパターンに次のパターンを正確に重ねるための「重ね合わせ精度」

  • 第2の技術は、「重ね合わせ精度」です。シリコンウェハ上に電⼦回路のパターンを露光する際には、何度もフォトマスクを交換しながら、繰り返し焼き付けていく作業が必要になります。ニコンではフォトマスクとシリコンウェハの位置がずれないように複数のセンサーを用いてnmレベルで超精密に位置合わせしています。

  • 技術 3

    半導体露光装置の処理能力を表す「スループット」

  • 第3の技術は、半導体の量産時に重要となる「スループット」です。スループットは、1時間あたり何枚のシリコンウェハを露光できるかという生産性を表しています。1枚のシリコンウェハに数百の半導体を露光するために、シリコンウェハをセットしたステージの高速制御を実現し、高スループットを達成しています。

    「非微細系」に適した半導体露光装置

    アナログ半導体やパワー半導体に適したi線ステッパー・KrFスキャナー

    アナログ半導体やパワー半導体は、比較的大きな回路パターン幅で製造されるため「非微細系」の用途に分類されます。

    アナログ半導体は、スマートフォンのカメラや自動車のADAS(先進運転支援システム)などに、パワー半導体は、自動車や産業機器、再生可能エネルギーシステムなどの電力制御に不可欠な要素となっています。このような用途では、波長の長いKrFレーザー(248nm)やi線(365nm)を使用した露光装置が主に用いられます。

    KrFスキャナーは、特に大規模な生産ラインでの使用に適し、スループットの高さと高精度な重ね合わせが求められる工程で活躍します。一方、i線ステッパーは、優れたコストパフォーマンスを発揮し、小型デバイスの量産や、コストが重要視される製品ラインで幅広く利用されています。

    品質とスループットの両立が求められる用途に
    ニコンの露光装置 KrFスキャナー/i線ステッパー製品

    「微細系」に適した半導体露光装置

    微細な回路パターンの形成に適したArFドライ・ArFスキャナー

    最先端の高性能半導体製造では、ArFタイプの露光装置が幅広く活用されています。この装置は、ArF(フッ化アルゴン)の特性を活かした193nmの短波長レーザーを使用することで、ウェハ上に非常に微細な回路パターンを形成できます。

    ArFタイプの露光装置は、特にCPUやメモリーなど、コンピュータの頭脳にあたる高性能な半導体の製造に適しています。スマートフォンやデータセンター向けの高性能チップにも対応し、高度情報社会のデバイスに求められる高い処理性能を実現します。

    また、ニコンはこの技術に「液浸露光」方式やマルチプルパターニング(露光を繰り返すことで回路の密集度を高める技術)を取り入れ、ArF露光装置の解像度を向上させることで、10nm以下のプロセスノードまで微細化を実現しています。

    理論の限界を超えて高い解像度を実現する「液浸露光」

    液浸露光では、純水がレンズのように働き、高い解像度が得られます

    半導体は誕生以来、急速に微細化し、それに伴って多くの機能を搭載できるようになりました。しかし、微細化を進める中で、「光の回折限界」と呼ばれる理論的な制約により、一定以上の微細化は難しいとされていました。この限界を打ち破ったのが「液浸露光技術」です。

    この技術では、従来の空気(屈折率1.00)の代わりに、屈折率が高い純水(1.44)をレンズとシリコンウェハの間に満たすことで光の波長を短縮し、解像度を飛躍的に高めます。これにより、さらに微細な回路パターンの形成が可能となり、高性能なCPUやメモリーなどの半導体の製造が実現しました。この液浸露光技術は、半導体のさらなる小型化と高機能化を推進する重要な要素となっています。

    高度な回路微細化が求められる用途に
    ニコンの露光装置 ArFスキャナー製品

    アライメントステーションの必要性

    露光前に歪みを計測し、フィードフォワードで補正

    半導体製造では、回路パターンを焼き付ける際に数十回のフォトマスク交換を繰り返します。そのため、シリコンウェハとフォトマスクの位置ズレを防ぐことが非常に重要です。ほんの少しの誤差でも製品品質に大きな影響を与えるため、精密なアライメントが求められます。しかし、素材には常にわずかな歪みが生じるため、これを補正するためのアライメントステーションが欠かせません。

    ウェハの歪みを正確に検出し、露光工程で補正することで、高品質な半導体の製造が可能になります。ニコンは、「Litho Booster」や「inline Alignment Station (iAS)」といった技術を活用し、露光前に歪みを計測して補正することで、さらに精度を向上させています。この技術革新により、より小型で高性能な半導体の製造が実現しています。

    高精度なアライメントで歩留まり向上に貢献
    ニコンのアライメントステーション

    計測・検査装置の必要性

    ウェハの検査やイメージセンサーの性能検査に対応

    微細な加工の精度を正しく計測・測定できる技術は、高品質な半導体を完成させるために不可欠です。これを実現するために、ニコンは光学技術を駆使した高精度な計測・検査装置を提供しています。

    例えば、ウェハの検査には、目視による外観検査装置「N-SISシリーズ」のほか、ウェハ全体を一括で撮影し、高速かつ高精度で検査が可能な自動マクロ検査装置「AMIシリーズ」があります。これにより、検査工程の効率化に貢献します。また、ニコン独自の技術を活用したイメージセンサーの検査用照明装置「N-SISシリーズ」を用いることで、イメージセンサーの製造においても精密な光学的検査が可能となります。

    これらの計測・測定装置を組み合わせることで、効率的かつ精密な検査が可能となり、最終的に製品の品質と生産性の向上に大きく貢献します。

    非微細系から微細系、
    計測・検査まで揃うニコンの半導体技術

    半導体製造には、比較的大きな回路パターンを扱う「非微細系」と高性能の「微細系」、それぞれに適した露光装置が必要となります。ニコンはこの両方の分野で細やかにニーズに応える露光装置を提供していることが特長です。

    また、ニコンでは露光装置だけでなく、計測・検査装置も手掛けており、これによりお客様の課題解決を包括的にサポートできます。これは光学メーカーとして長年産業分野で培ってきた技術力によるものです。これからも豊富な製品ラインナップを通じて最適な装置環境を提供し、ますます多様化するデバイス製造に貢献していきます。

    ニコンでは、露光の前工程から検査工程に及ぶ幅広い装置展開により包括的なサポートが可能です

    ニコンの半導体露光装置について詳しくはこちら

    ニコンは半導体露光装置を製造できる世界でも数少ないメーカーの1つとして、パワー半導体、通信用半導体、MEMSなどさまざまな半導体デバイスの効率的な生産に貢献します。

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    株式会社ニコン
    精機事業本部 半導体装置事業部

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