Designer’s Voice vol.3

2021.7.15 | マーケティングコミュニケーション・デザイナー

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マーケティングコミュニケーション・デザイナー、北村芳樹。カタチや見た目を超えた「デザイン」の可能性を追求し続けています。

「デザイン」が持つ力

長年、ニコンで宣伝などに関係する仕事に携わり、現在はデザインセンターと半導体装置事業部マーケティング課に所属しています。私はデザインセンターにも所属していますが、絵を描くことも、線を引くこともできません。高校時代に美術部に所属していたこともありますが、あくまでも誘われて入ったというレベルで、グラフィックやプロダクトをデザインできるわけではありません。

では何をデザインしているのか。一言で言えばコミュニケーションである、と考えています。
これまで、広告グラフィックやCMなどの映像、プロダクトなど、さまざまなデザインが人の心を動かす瞬間を目の当たりにしてきました。私自身、学生の頃往年のフィルム一眼レフカメラ「F3」にあこがれてニコンに興味を持った一人です。
そんなデザインの持つ力を通じて、ニコンの製品や企業活動といったさまざまな事柄と、人との出会いをより良いものにしていく。コミュニケーションの新しい可能性を追求しているのだと思っています。

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「見た目」の追求から、
デザインの本質へ

日本各地の都市に、ニコンのネオン看板を設置するというのが、この会社に入社して最初の仕事でした。とてもシンプルなことですが、ロゴマークの形状がいかに忠実に再現されているかをチェックするということに心血を注いだのを覚えています。文字通りニコンの看板として、胸を張れるものにしなくてはならなかったからです。
この仕事も含め、グラフィックデザインの第一人者、亀倉雄策先生の仕事に触れることができたのも貴重な経験でした。その後は展示会のパネルや映像、カタログなどの制作に携わりながら、外部のクリエイターとともにさまざまなプロジェクトに携わってきました。

ニコンというブランドを背負うに値する、美しいもの、カッコいいものをつくる。そしてそれを理解していただく。そんな共通の目標に向かってクリエイターたちと一緒に目線を合わせ、全力で挑んできたという自信はあります。

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ただ、目に見えるものの奥にあるデザインの本質に気づいたのは、もっと後のことでした。特に記憶に残っているのは、ニコンの100周年を記念した企業ミュージアム「ニコンミュージアム」の立ち上げに、多くの外部スタッフと共に携わったときのことです。

ニコンミュージアムはニコンのさまざまな事業の歴史や製品、技術などを一堂に展示し、企業の全貌を伝えるための場。一般の人がまず目にすることのないBtoB製品の紹介や、ニコンのあらゆるプロダクトのコアとなる光学技術の説明が求められました。しかし、どれだけ美しいグラフィックやカッコいい映像をつくっても、人は普段の暮らしから縁遠いものには興味を示しにくいものです。

従来の手法だけでは解決できないものがある……。これまで参加してきたどんなプロジェクトとも異なる難しさを感じました。

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それならば、実物を見ていただき、さまざまな来場者の目線に合わせたコミュニケーションをとってみてはどうだろう。頭を悩ませた末に、シンプルな答えにたどり着きました。

たとえば、半導体製造に欠かせない半導体露光装置(ステッパー/スキャナー)は、「人類史上最も精密」とまで言われる装置です。そこで、熊谷製作所に保管されていた1980年代の装置を当時の設計者に整備してもらい、その動きを実際に見られるようにしました。
ニコンが創業以来ずっと研究し続けている「光利用技術」も、一般の人が普段の生活の中で意識することは無いからこそ、見て、触れて、感じられるものが必要だと考えました。投影レンズの元となる石英ガラスのインゴットをエントランスに配置してみたり、お子さんでもわかりやすい「光の科学」を紹介するコーナーを設けたりと、クリエイターだけでなく、社内外の多くの人の知恵や力を借りながら、さまざまな手法にチャレンジしました。
空間としての完成度やプロダクトの造形、パネルの美しさといったものだけでなく、来場者の立場になって最善のコミュニケーションを追求する。そんなデザインの本質に触れたような気がしました。

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ニコンのデザインが目指す、
新しい可能性

私たちはいま、デザインの力でニコンと世の中のコミュニケーションをより良いものにするということにチャレンジしています。
ニコンは、ユーザーをはじめとした多くの方とのコミュニケーションを担うブランド部門と、デザイン部門とを一体化させた、他でもあまり例を見ない組織をつくりました。この体制によって社内のデザインチームが持つスキルを、プロダクトやグラフィックといった領域以外でも、さまざまなコミュニケーションに活かすことができるのです。

ユーザーの方はもちろんのこと、ニコンの社内にも「デザインの力」を必要としている人がたくさんいます。伝え方を変えれば、ビジネスとしてより良い結果を期待できる製品やサービスが多くあるのです。

単に凝ったカタログをつくればいいというわけではありません。製品の優れた部分をもっと伝えたい、サービスの存在を知ってもらいたいといった想いや、現状の課題に一つずつ丁寧に向き合う。どんなときでもユーザーのことを考えてデザインに取り組む、ニコンのデザイナーの力で解決策を導き出す。さらに、外部のクリエイターの創造性もかけ合わせながら、コミュニケーションが最大限の効果を発揮できるように、道筋を描いていく。
ニコンの未来へ向けたチャレンジを、デザインの力で後押ししているのだと考えています。

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日本デザインセンター狩野ディレクターと北村の撮影現場での打ち合わせ風景

ニコンと人の、接点をつくる

今回、ニコンのことを多くの方に知っていただくために制作した2本の映像は、そんな取り組みが結実した例だと言えます。
ニコンがこれまで何をしてきたのか、何をつくっているのか、これからどんなことにチャレンジしていくのか。ともすれば「企業紹介」として堅苦しくなりがちな情報を、これまでニコンとの関わりがなかった方にも楽しんでいただけることを目指したのです。

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生き生きと働く社員の姿を通じて、ニコンがこれから向かう未来について紹介したのが、「未来を実現するものづくり」篇です。
ニコンという企業であっても、その中にいるのは人。メッセージを伝えるべき相手も人です。だからこそ、さまざまな分野の製品開発に携わるスタッフに出演してもらい、自分の言葉で想いを語ってもらいました。

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もう1本は、実写とアニメーションの組み合わせという新しい表現に挑んだ「わたしたちの未来は」篇です。
特に若い人たちに、私たちのことを知っていただくにはどうすればいいか。そんな課題に対して、メンバーの中から上がったのが「アニメーションを取り入れてみたい」という意見でした。前例がないだけに、最初は戸惑いがあったのも事実です。しかし、人との接点をつくるというデザインの基本に立ち返ったとき、これほどふさわしい方法もありません。すぐメンバーと共にアニメーションを得意とする制作会社を訪ね、ストーリーの検討に入りました。4人の高校生がそれぞれ実現したい未来を描き、ニコンの製品や技術がそこにリンクしていく。これまでにないテイストの作品になりましたし、きっとニコンの新しい一面を感じていただける映像になったと思います。

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ずっと、
コミュニケーションのために

これからのデザインはどう変化していくのでしょうか。さまざまな技術が発達し、企業と人、人と人のコミュニケーションも進化し続けています。新しい表現方法やメディアもどんどん生まれていくと思います。
それでも、伝えるべき相手のことを徹底的に考え抜き、真摯に向き合うという本質は決して変わらないはずです。これからも、社内外のスタッフが持てる力を最大限に発揮できる環境をつくりながら、ニコンと人との関係をデザインしていきたいと考えています。

メンバーが語る、
デザインとコミュニケーション

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社内外のチームで、コミュニケーションの課題解決を
コミュニケーションデザイナー 原 美帆

デザインに求められることが変化するなか、社内外の多くの知恵を集めて、チームで解決していくことがより重要になってくると思います。グラフィックやプロダクトといったひとつの手段にこだわることなく、いかに課題解決への道筋を描くことができるか。それが今後目指していきたいものです。アンテナを大きく広げて、チャレンジしたいと思っています。

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新しいコミュニケーションを追い求め続けたい
コミュニケーションデザイナー 中村 明日香

今回、アニメーションを使った映像表現を特に提案しました。若い人にとって、アニメーションは幼い頃からずっと慣れ親しんできた身近な表現。ニコンのことを知っていただくために、最適な方法だと思ったからです。結果としてさまざまなクリエイターの方にご協力いただき、見応えのある映像になっています。SNSをはじめとする発表の場が多様化したことで、世の中には「表現をする人」が増えてきています。そうした新しいクリエイターの表現には、これまでにないコミュニケーションのヒントが隠れていると思います。刺激を受けながら、私たち自身もコミュニケーションの幅を広げていけたらと考えています。